「重訪の沈黙の時間が、本当にしんどい」
新人スタッフを見ていると、よく感じる悩みです。
私自身、独り立ちした頃にまったく同じ気持ちでした。
だから研修中、新人さんには「沈黙はしんどい時期があるけど、向き合い方は必ず見つかるよ」と心構えとして伝えるようにしています。
新人時代、利用者さんのお宅で待機している時間に、1日ケアだけで終わって、会話ゼロだった日もあります。
「何か話さないと」と頭の中で焦るのに、何を話していいかわからない。
時間だけがただただ過ぎていく感覚。
あの頃の自分に、今なら言えることがあります。
申し遅れました。Totchiです。
介護現場12年、重度訪問介護(以下、重訪)に移って4年。介護福祉士の資格を取ったのは2年前。
今でも「沈黙への焦り」は、独り立ち直後と大きくは変わりません。
でも、向き合い方は確実に変わりました。
今日は、私が4年かけて見つけた、沈黙との3つの向き合い方について書いておきたいと思います。
※ 重訪の「怖さ」について書いた前回記事はこちら → 重度訪問介護のリアル。介護4年目の今でも、二人きりの時間が一番怖い
向き合い方①:沈黙を「気まずい時間」から「観察する時間」に変える
新人時代の私は、沈黙の時間を「埋めなきゃいけないもの」だと思っていました。
何か話さなきゃ、何かしなきゃ、と頭の中で焦りながら、結局何もできずに時間が過ぎる。
でも4年経って気づいたのは、沈黙の時間は「何もしていない時間」じゃないということです。
沈黙の時間に、実は私がやっていること
今、私が利用者さんとの待機時間にやっていることは、ざっくり3つあります。
- 手順の確認:次のケアの段取り、注意点を頭の中で復習する
- 利用者さんの観察:何に興味があるのか、普段どう過ごしているのか、様子を見る
- 体調の観察:呼吸、顔色、表情の変化、小さな異変がないか
新人時代に「何もできなかった」のは、沈黙を埋めることばかり考えていたからです。
視点を「自分が何を話すか」から「利用者さんの何を見るか」に切り替えると、沈黙の時間が情報の宝庫に変わります。
他のスタッフからの情報も、観察の材料になる
独り立ち直後、自分一人で観察できる情報は限られています。
だから私は、他のスタッフにその利用者さんの傾向と対策をよく聞きました。
「あの方、最近この話題が好きみたい」
「気分が落ちてる時、こういうサインが出るよ」
こういう情報を持って訪問すると、沈黙の時間に「あ、今そのサイン出てるかも」と気づける。
観察の解像度が一気に上がります。
沈黙は「埋める時間」じゃなく「観る時間」。
これだけで、同じ沈黙が違うものに見えてきます。
向き合い方②:話題は「自分の中」じゃなく「外」から借りる
「何を話していいかわからない」と悩む新人さんに、よく聞かれます。
「Totchiさんは何を話してるんですか?」と。
正直に言うと、私もたいしたネタを持っているわけじゃありません。
ただ、「自分の中から話題を絞り出そう」という発想を、ある時期からやめました。
話題は、外から借りればいい
私がよく使う話題のソースは、こんな感じです。
- その日の天気の話(「今日寒いですね」「桜咲いてましたよ」)
- ニュースの話題(重い時事より、明るい話題やローカルニュース)
- 訪問看護師さんとの会話に少しずつ入る(他の人の会話が、自然な話題のきっかけになる)
- ケア中の声かけ(「次、〇〇しますね」「これくらいでいいですか?」)
特に最後の「ケア中の声かけ」は、新人さんに伝えたいポイントです。
無言でケアをすると沈黙が重くなりますが、声かけしながらやると、それ自体が会話の入り口になります。
自分のプライベートは、原則話さない
これは私の方針ですが、自分のプライベートは基本的に話しません。
聞かれたら答えますが、深くは語らないようにしています。
なぜか。重訪は1対1の長時間ケアです。
スタッフが自分の話を毎回するようになると、関係性が「対等な雑談相手」に近づいていく。これが意外と難しい場面を作ります。
たとえば、利用者さんが「Totchiさんに話したいことがある」と思ってくれた時、私の話で時間を使ってしまうと、その瞬間が逃げる。
だから私は、聞かれた時だけ、軽く答える程度に留めています。
話題を自分から絞り出すんじゃなく、天気・ニュース・他のスタッフの会話・ケアの声かけから借りる。
そして、自分のプライベートは適度な距離を保つ。
これだけで、会話のハードルがぐっと下がります。
向き合い方③:距離感を保つことが、信頼を作る
新人時代、私は「親しくならなきゃ」と焦って、距離を詰めすぎていた気がします。
でも、上手なベテランスタッフを見ていると、共通点がありました。
上手な人は「寄り添うけど詰めすぎない」
長く重訪をやっていて「この人、利用者さんといい時間を過ごしてるな」と感じる人がいます。
その人たちの共通点は、こんな感じです。
- コミュニケーションの取り方が上手い(押しつけがましくない)
- 沈黙していても、相手に寄り添う姿勢がある
- ちょっとした事をネタにして、自然に話題を広げる
- 拒否されても、言い方を変えて納得してもらう力がある
特に最後の「言い方を変える力」が、新人と経験者の差が出るポイントです。
「拒否」を「対話」に変える、具体的な言い換え
私自身、新人時代によくケアを拒否されました。
その時、まず怒られた言葉を真正面から受けすぎていました。「もうやらなくていい」と言われたら、「やめます」と引き下がってしまう。
でも経験を積むと、同じ意味を別の言い方で伝えることを覚えます。
たとえば、ケアのやり方を「不快」と言われた時。
「申し訳ないです、やめます」で終わらせるんじゃなく——
「すみません、不快な思いをさせてしまって。
今のやり方じゃなく、より楽なやり方を一緒に見つけたいんです。
どこが一番気になりましたか?」
こう返すと、拒否が対話に変わります。
利用者さんも「やめさせる」じゃなく「教える」モードに切り替わる。
結果的に、その方に合ったケアの仕方が見つかっていきます。
距離感を保つ=信頼を急がない
新人さんに伝えたいのは、信頼関係は急いで作るものじゃないということ。
距離を詰めすぎると、関係が浅いうちに踏み込みすぎてしまう。
逆に、適度な距離を保ちながら、毎回のケアを丁寧に積み重ねる方が、結果的に深い信頼につながります。
これは時間がかかります。週単位ではなく、月単位、時には年単位。
でも、確実に積み上がります。
そして、沈黙が「しがらみ」じゃなくなる日が来る
ここまで読んでくれた方に、最後に伝えたいことがあります。
沈黙との向き合い方を3つ書きましたが、これは全部「乗り越えるための技術」です。
本当に大切なのは、その先にある景色です。
信頼関係ができると、沈黙が変わる
利用者さんと時間をかけて信頼関係を築くと、ある日気づきます。
沈黙が、もう「埋めなきゃいけないもの」じゃなくなっていると。
感謝してもらえることが増える。
笑顔を見せてくれるようになる。
こちらの存在を、ただ受け入れてくれる。
そうなった時、私はいつも思います。
やっと「しがらみ」から解放されたな、と。
沈黙が「気まずさ」から「一緒にいる時間」に変わる。
そうなると、その日の支援はとても心地よく終わるようになります。
これが、重訪という仕事の本当の手応えだと、私は思っています。
今、沈黙が辛い人へ
正直に言います。独り立ち直後の焦りは、4年経った今でもゼロにはなりません。
新しい利用者さんを担当する時、最初の数回は今でも緊張します。
でも、向き合い方を知っていれば、その焦りは「乗り越えられる焦り」に変わります。
今、沈黙の時間が辛いと感じているなら——
- 沈黙を「観察する時間」に変える
- 話題は外(天気・ニュース・ケアの声かけ)から借りる
- 距離感を保ちながら、毎回のケアを丁寧に積む
この3つを意識するだけで、明日からの沈黙が少しだけ違って見えるはずです。
もし、今の現場がどうしても合わないと感じるなら
ただ、ここまで意識しても、その利用者さんやその現場と相性が合わないこともあります。
これは、新人が悪いんじゃない。重訪は1対1の長時間ケアなので、相性の問題は必ず存在します。
もし「この現場、本当に合わないかも」と感じているなら、環境を変える選択肢を持っておくことも大事です。
同じ介護でも、施設・訪問・夜勤の有無・1対1か集団かで、仕事の質はまったく違う。
合わない場所で消耗するより、自分に合う場所を探す方が、利用者さんのためにも、自分のためにもなります。
介護職に特化した転職サービスは、求人を眺めるだけでも「こういう働き方もあるんだ」と気持ちが楽になることがあります。
私もこういうサービスをチェックすることがあります。
最後に
重訪の沈黙との向き合い方を、私自身の経験から書きました。
新人時代の私は、沈黙を「敵」だと思っていました。
でも今は、沈黙の中に「観察する」「信頼を積む」「ただ一緒にいる」という意味があると感じています。
もちろん、毎回うまくいくわけじゃありません。
今でも気まずい沈黙を持て余す日はあるし、利用者さんとの関係に悩む日もある。
でも、それでいい。
4年やってきて、そう思えるようになりました。
沈黙を恐れなくていい。
それは、利用者さんと共有する大切な時間の一部だから。
次回は、この「向き合い方」の先にある「利用者さんとの信頼関係をどう築くか」について書いてみたいと思います。
Totchi(トッチ)
介護職12年(うちデイサービス8年/重度訪問介護4年)。
介護福祉士・重度訪問介護支援員。
現役で重訪に従事しながら、現場のリアルを発信中。

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