「え……それは、してもらえないんですか?」
ご家族のその一言に、私は何度も言葉に詰まってきました。悪気があるわけじゃない。ただ「これくらい、ついでにお願いできるだろう」と思っていただけ。その”思っていた”と、制度の”できる範囲”のあいだには、意外と深い溝があります。
介護の現場に立って12年、そのうち約4年は重度訪問介護の現場で、いまはサービス提供責任者(サ責)として働いています。制度の建前も、現場のもどかしさも、両方を毎日見ている立場です。この記事では「重度訪問介護はどこまでやってくれるのか」を、きれいごと抜きで、正直に線引きします。読み終えるころには、「頼めると思ってたのに」というすれ違いを、ご家族の側から先回りして防げるようになっているはずです。
結 論判断基準は、たった一本の線だけ
できること・できないことを一つずつ暗記する必要はありません。重度訪問介護の可否は、たった一つの問いで9割見分けられます。
本人の生活に必要なこと=できる可能性が高い。本人以外(同居のご家族・来客・ペット・世帯全体)のため=原則できない。この線を頭に置くだけで、以下の話がすっと理解できます。
重度訪問介護は「家政婦さん」でも「便利屋さん」でもありません。障害者総合支援法にもとづき、公費で成り立つ“本人の在宅生活を支えるための”サービスです。だからこそ、線がはっきりしている。冷たいのではなく、必要な人に必要な支援を回し続けるための線なのです。
意外と“できる”見守りの時間は、サボりではなく“安心”そのもの
まず、多くのご家族が過小評価している”できること”から。それが見守りです。重度訪問介護では、直接介助をしていない待機の時間――ヘルパーがそばにいて見守る時間も、れっきとしたサービスとして認められています。これは他の訪問系サービスにはない、重訪ならではの大きな強みです。
ところが、この時間はときどき誤解されます。「何もしていないように見える時間に、お金がかかるの?」と。正直に言えば、スタッフの中にも、待機中にどこかくつろいで見えてしまい「この人、大丈夫かな?」と思われる場面はあります。
「ついでにお願い」の壁
次に、現場でいちばん多い”できない”。それが「ついでに、これもお願い」系です。具体的には、こんな場面。
・ゴミ出しのときに他のご家庭のゴミも“ついで”に出してほしい
・ご利用者様とは関係のない来客への対応
どれも、気持ちはよく分かります。目の前に人がいて、頼まれれば、断るほうが心苦しい。それでも、これらは先ほどの一本の線――「本人の生活のため」から外れてしまいます。荷物も、他家庭のゴミも、来客も、”ご利用者様本人の生活に不可欠なこと”とは言いにくいからです。ヘルパーが良かれと思って一度応じると、次に入るヘルパーへの過剰な期待になり、めぐりめぐって現場全体のルールが崩れていきます。
いちばんグレーペット、そして“急なお願い”――線が引けない葛藤
ここが、この記事でいちばん正直に書きたかったところです。制度の線が、きれいに引けない場面があります。その典型がペットです。
ご利用者様の居室内で、飼っているペットが排泄をしてしまった。放置すれば、誤って踏んでしまいそうで危険ですし、その場はどんどん不潔になっていく。でも、その片づけは”本人の生活援助”の範囲とは言いにくく、制度上は手を出せない――。
じつは「育児支援」も似たグレーゾーンです。親であるご利用者様の子どもに関わる支援は、一定の条件を満たせば”できる”場合もあります。つまり多くのグレーは、「絶対に無理」でも「なんでもOK」でもなく、“事前に決めておけるかどうか”で答えが変わるのです。
反 論 処 理「制度って、ちょっと冷たくない?」
Q. 目の前で困っているのに、なぜ助けてくれないの?
もっともなお気持ちです。私自身、何度もそう感じてきました。ただ、この線引きは”冷たさ”ではなく、全員が公平に、必要な支援を受け続けるための仕組みだと考えています。一人への善意の”ついで”が、別の利用者さんへのしわ寄せや、ヘルパー一人への過剰な負担になり、制度そのものが立ち行かなくなる。線があるからこそ、本当に必要な人へ、必要な支援が回り続ける。少し逆説的ですが、線を守ることは、ご利用者様を長く支えることにつながっているのです。
ご家族が“先回り”でできる3つのこと
「頼めると思ってた」のすれ違いは、ほとんどが事前の準備で防げます。
- 「こういう時どうする?」を、先にケアマネ・サ責へ相談しておく。グレーな場面ほど、事前に相談して支援計画に落とし込んでおけば、当日の”迷い”がなくなります。
- 制度外のことは、自費サービスや家事代行との“併用”を前提に設計する。大掃除・草むしり・ペットケアなどは、専門の業者に任せる導線をあらかじめ用意しておくと安心です。
- 迷ったら、遠慮なくサ責に聞く。「これはお願いできますか?」の一言でいい。線引きを一緒に考えるのが、私たちサ責の仕事です。
まとめ|線を知ることは、諦めるためじゃない
「重度訪問介護は、どこまでやってくれる?」――その答えは、「ご本人の生活のため」という一本の線に尽きます。
この線を、ご家族とサ責が一緒に握れたとき、重度訪問介護はもっと使いこなせる制度になります。線を知ることは、諦めるためではなく、ちゃんと”使い切る”ため。困りごとがあれば、まずは担当のサ責に一言、声をかけてみてください。
※本記事は一般的な運用にもとづく解説です。重度訪問介護で「できること・できないこと」は、市区町村の運用方針や事業所の判断、ご利用者様の状況によって異なる場合があります。具体的な可否については、必ず担当のケアマネジャー・サービス提供責任者、または お住まいの市区町村にご確認ください。
執筆:Totchi(介護福祉士/現役サービス提供責任者)

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